那須川天心 vs フロイド・メイウェザー戦の雑感

試合前は全然期待していなくて、メイウェザーが9分タコ踊りするか塩漬けにして終わりだと思っていたので、予想とは全然違う虐殺試合になって驚いた。同時にボクシングすごいと感じた。

私は剣道を過去やっていて、その流れでボクシングも総合格闘技もやっていれば見る程度の格闘技ファンなのだが、考えてみるとキックや関節なしの純粋ボクシングルールで他流試合が組まれたことは過分にして知らない(私が知らないだけである気はする)。世界チャンピオンクラスのボクサーは四団体の試合に出ているほうが儲かるだろうし、そこからパージされて格闘技のリングに上がるボクサーはキックや関節ありの不利なルールを飲まざるを得ない。高田延彦がローキックでボコボコにしたトレバー・バービックなんてその最たるものだし(あれは半分騙し討ちという説もある)、K-1MAXが勢いがあったころは魔娑斗にロートルボクサーを当ててキック葬みたいな試合がたまに組まれていた。アントニオ猪木vsモハメド・アリは例外だが、あれは新日本プロレスの騙し討ちのような試合だった。

今回なぜボクシング外のリングでボクシングの試合が組まれたかと言うと、それは相手がフロイド・メイウェザーだったからだ。WWEのリングに上ってビッグ・ショーとプロレスをやることも厭わない節操の無さ(あるいは寛容性)と、ボクシングルールでもリングに上ってもらうことに価値がある実績と知名度。ふたつの顔を併せ持つボクサーは世界広しと言えどメイウェザーくらいしかいなく、ゆえにボクサーとキックボクサーがボクシングで戦うという試合が現出した。

試合はメイウェザーが圧倒。私はとにかくメイウェザーの技術に瞠目した。ボクシングの世界戦などを見ていると、両者の技術が拮抗しているためか何がどれくらいすごいのかが素人目にはよくわからなかったりする。学者をふたり読んできて専門的な話をしてもらっても、なんとなくすごいんだろうなという感想しか出てこないのと同じだ。だが今回はそこに那須川天心という比較用の物差しが入ったことで、ボクシングのすごさが逆説的に現出したのではないかと思う。相手のパンチを眼前で躱すスリッピング・アウェーの技術、相手のテンプルを銃弾のように撃ち抜くジャブの精度、美しさ。専門家に言わせると全盛期のメイウェザーの十分の一ほどの実力しか出してなかったそうだが、それでもボクサーが営々積み重ねてきた技術がどういうものなのか、その端緒が見えた気がして、個人的には大変面白い試合だった。

というわけで今年はボクシングを色々見ていきたい。今年もはてブ活動をしていきますのでよろしくお願いします。